机に向かって考えているのに、言葉が出ないことがあります。企画の切り口が見つからないこともあります。文章の最初の一段落だけがどうしても固まらないこともあります。そんなときに少し歩くと、急に流れが出ることがあります。

この感覚は、なんとなくの気分転換として片づけられやすいです。けれど、歩くことそのものが発想の出やすい状態を作っているのだとしたら、話は少し変わってきます。歩くことは休憩ではなく、思考の詰まり方を変える行動かもしれません。

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"Walking opens up the free flow of ideas."

(歩くことは、自由な発想の流れを開きます。)

Marily Oppezzo と Daniel L. Schwartz による Give Your Ideas Some Legs: The Positive Effect of Walking on Creative Thinking(歩くことが創造的思考に与えるポジティブな効果)は、座っている条件と歩いている条件で、創造的思考課題の成績がどう変わるかを比較した研究です。ここで重要なのは、歩行を単なる休憩ではなく、発想が生まれやすい条件を変える行動として扱っている点です。

この研究では、健康な成人を対象に、座位、屋内トレッドミル歩行、屋外歩行などを比較し、発散的思考と収束的思考に関わる課題成績を評価しています。 この研究が面白いのは、歩くと頭がよくなると単純化するのではなく、思考のモードを切り替えやすくする可能性として示している点です。

考えが詰まるのは能力不足より固定のしすぎかもしれない

発想が出ないとき、人はつい自分の能力を疑います。けれど実際には、問題は能力そのものより、身体も視線も注意も一つの場所に固定されすぎていることかもしれません。

長く座っていると、同じ椅子、同じ画面、同じ悩み方が続きます。考えを深めるにはそれが助けになることもありますが、発想の幅を広げるには不利になりやすいです。創造性には集中も必要ですが、少し広がった注意も必要です。

歩行は発散的思考を動かしやすい可能性がある

この研究では、歩行中または歩行直後に、とくに発散的思考の課題で成績が高まりやすいことが示されました。一方で、答えを一つに絞るような収束的課題では、同じ伸び方ではありませんでした。

ここから読み取れるのは、歩行が万能に知的能力を上げるというより、思考のモードを切り替えやすくするということです。発想を広げたいときには歩くことが助けになりやすく、絞り込む段階では別の静けさが必要になることもあります。

歩くと視線 呼吸 覚醒が少しずつ変わる

歩き始めると、身体は完全な静止から離れます。息が上がるほどの運動ではなくても、視線が変わり、呼吸が変わり、身体感覚が少しずつ動き出します。これだけでも、机に張りついていた思考の癖がほどけやすくなります。

創造的な思考には、強い集中だけではなく、少し自由な連想が入る余地も必要です。歩行はその余地を作りやすい行動だと考えると、歩くと考えが出る感覚も理解しやすくなります。

座り続けることは発想の停滞を呼びやすい

日常では、次のような形で停滞が現れやすいです。文章の最初の一行が出てこない、企画の切り口が浮かばない、同じ表現ばかり繰り返してしまう、判断が長引いて決めきれない。それでも、その場から離れられないことがあります。

ここで起きていることは、単なる気分の問題ではありません。注意の向きと身体の状態が固定されすぎて、発想に必要な柔らかさが失われている可能性があります。詰まっているのにその場で絞り出そうとすると、かえって同じところを回りやすくなります。

東洋医学では停滞した状態を気の巡りの弱さとして捉えることがある

東洋医学では、長く座り続けて頭ばかり使い、身体全体の流れが弱くなっている状態を、気の巡りの停滞として捉えることがあります。身体を動かさないまま考え続けると、胸や頭に詰まり感が出て、考えまで固くなりやすいという見方です。

逆に、軽く歩くことは、滞ったものを少し流す行動として理解されます。呼吸、視線、足の運びが変わることで、頭だけに偏っていた状態がほどけやすくなる。現代の創造性研究とは理論体系が異なりますが、歩くと考えが流れやすくなる感覚を、身体全体の巡りとして説明している点では重なる部分があります。

発想の停滞は生活の流れの中で起きやすい

コアサイクルチューン(循環調律)では、生活の好循環を乱す要素を不協(ディゾナンス)、それを整える行動を解決(レゾリューション)として扱います。

この視点で見ると、発想の出にくさは単発ではありません。長時間座る、同じ刺激に固定される、身体感覚が停滞する、注意が堂々巡りになる、さらにその場で絞り出そうとする。こうした流れの中で、考えはますます固まりやすくなります。

Dissonance Cycle 不協が作る悪循環
不協 長時間座ったまま同じ 課題に固定される 身体状態 身体活動が減って停滞 感が強まり、呼吸や視 線も変化しにくくなる 心理状態 注意が固まり、考えが 堂々巡りになりやすい 不協 詰まっているのにその 場から離れない 次の行動 さらに座ったまま絞り 出そうとして発想が滞 りやすくなる

短い歩行は発想を戻す解決になりやすい

解決(レゾリューション)は、長時間の運動ではなくて構いません。5分から10分ほど歩いて、身体を完全停止から離すだけでも意味があります。視線が変わり、呼吸が変わり、注意の張りつきがやわらぎやすくなります。

大事なのは、歩いている最中に正解を出そうとしすぎないことです。一つだけ問いを持って歩き、戻ってから箇条書きで出すくらいが使いやすいです。屋外に出られるなら屋外がより役立つこともありますが、屋内歩行でも一定の効果は見られています。

Resolution Cycle 解決が作る好循環
解決 5分から10分ほど歩 いて身体を動かす 身体状態 覚醒と身体感覚がゆる やかに変わり、停滞感 がほどけやすくなる 心理状態 注意の固定がやわらぎ 、発想が広がりやすく なる 解決 歩行を発想切り替えの 習慣として使う 次の行動 メモや構成の見直しに 戻りやすくなる

歩くことは答えを与えるより流れを戻しやすくする

歩けば必ず名案が浮かぶわけではありません。けれど、歩行は発想をせき止める固定をゆるめ、考えが流れやすい状態を作る可能性があります。

発想の問題を能力不足として見るより、生活循環の乱れとして見るほうが日常では役に立ちます。長く座り続けて詰まる流れを、短く歩いてほどく流れへ変えること。それが小さくても意味のある解決(レゾリューション)になります。

Research Note

Research Note

Give Your Ideas Some Legs: The Positive Effect of Walking on Creative Thinking

2014 Marily Oppezzo, Daniel L. Schwartz
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どこの研究か
Stanford University 関連で行われ、Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition に掲載された研究です
どんな内容か
歩行中または歩行直後に、とくに発散的思考が高まりやすいかを検証した研究です
対象・条件
成人参加者を対象に、座位、屋内トレッドミル歩行、屋外歩行などを比較し、創造性課題で評価しています
限界
創造性の全領域を代表するわけではなく、主に発散的思考課題での効果として読む必要があります