昼食を食べたあと、13時半。

急に眠い。

「血糖値が上がって、下がったからだ」

最近はそう説明されることが増えました。

血糖の変動が体調へ関係することはあります。糖尿病などで食後血糖の管理が重要な人もいます。

でも、午後の眠気を血糖値スパイクだけで説明することはできません。

なぜなら、人は昼食を食べなくても、午後に眠くなることがあるからです。

睡眠研究では昔から、昼過ぎに覚醒度が下がりやすい時間帯を「post-lunch dip」と呼んできました。

名前にlunchと付いているのに、昼食がなくても起こる。

ここがまず面白いところです。

小さな食事を毎時間とっても、昼過ぎには睡眠傾向が強まった

1992年の研究では、年齢の異なる参加者を一定環境に置き、2時間ごとに眠りやすさを測りました。

食事による大きな変化を避けるため、小さな食事を毎時間与えています。

それでも、思春期以降の群では昼頃に睡眠傾向が高まる時間帯が確認されました。

つまり、

昼食 → 眠気

だけでは説明できない。

人間の一日の覚醒リズムそのものに、午後の谷があると考えられます。

2005年のレビューでも、post-lunch dipは昼食を食べていない場合や、本人が時刻を知らない条件でも起こりうる、生物学的な現象として整理されています。

では昼食は関係ないのかというと、それも違う

体内時計の谷があるなら、何を食べても同じなのでしょうか。

そうでもありません。

2012年の運転シミュレーター研究では、前夜の睡眠を5時間へ制限した若い男性12人が、約305kcalの軽い昼食と約922kcalの重い昼食を別日に食べました。

午後の単調な2時間運転では、どちらの条件でも時間とともに眠気が悪化しました。

そのうえで、重い昼食では後半に車線逸脱やEEG上の眠気がより強くなっています。

つまり、

午後にもともと眠くなりやすい谷があり、大きな食事がそこへ上乗せすることがある。

この二段構えで考える方が現実に近いです。

炭水化物か脂質かだけで眠気を決めるのも難しい

1997年には、固形食と液体食、水、さらに高脂肪・高炭水化物・混合食を比較して、実際に眠りにつくまでの時間を測った研究があります。

固形食を食べた後では、水だけより眠りにつくまでが短くなりました。

一方、高脂肪・高炭水化物・混合という栄養構成の違いでは明確な差が出ませんでした。

小規模な古い研究なので、これだけで現代の食事を決めることはできません。

それでも「炭水化物だけが食後眠気の犯人」とする説明には、少なくとも研究上の穴があります。

食事量、形、時刻、前夜の睡眠、個人差が重なります。

高GI朝食でも、認知機能への影響は意外に小さかった

現在の記事で以前から扱っていた2020年のクロスオーバー試験では、健康な成人40人が高GI朝食、低GI朝食、水だけの条件を経験しました。

食後0・60・120分に記憶や注意などを測定しましたが、著者らの総括は朝食GIによる認知機能への影響は限定的でした。

この研究は眠気そのものを測った試験ではありません。

だから、

高GI → 血糖スパイク → 眠気

を否定した研究でもありません。

一方で、GIの違いだけから「午後に頭が働かない」を説明する根拠にもなりません。

検索すると原因が一つに見えがちなテーマほど、複数の線を残した方が自分の生活には使えます。

食後の眠気が毎日起こるなら、「食事の前」から一周を見る

前夜に寝不足だった。

午前中をカフェインで押した。

昼休みが遅れ、空腹で大盛りを早く食べた。

その直後、暗い会議室で座りっぱなしになる。

14時に猛烈に眠い。

この眠気を「血糖だけ」と呼ぶと、午前中まで消えてしまいます。

Dissonance Cycle 不協が作る悪循環
前夜の睡眠が足り ない 午前から睡眠圧が高い 昼まで無理に進め る 強い空腹で食事量が増 えやすい 午後の覚醒の谷へ 入る 食事後の休息反応も重 なる 遅いカフェインで 押す 夜の睡眠がまた後ろへ ずれる 座ったまま暗い環 境で過ごす 眠気がさらに強くなる

この一周では、「食後眠い」が途中にあるだけです。

入口は前夜かもしれないし、昼食量かもしれない。

複数を分けて見ると、試せる場所が増えます。

「血糖対策」をする前に、時間帯・睡眠・食事量を分けてみる

同じ眠気でも、パターンがあります。

12時に軽い昼食でも14時に眠いなら、時間帯と睡眠の影響が大きそうです。

大盛りを食べた日だけ強いなら、食事量が関わるかもしれない。

睡眠不足の日だけ極端なら、前夜が上流です。

Resolution Cycle 解決が作る好循環
眠くなる時刻を記 録する 食後何分ではなく時計 の時刻も見る 前夜の睡眠を一緒 に置く 寝不足の日だけ強いか 比べる 食事量を比べる 大盛りの日と普通の日 で違いを見る 必要なら短い仮眠 を使う 遅いカフェインだけで 押し切らない 午後に光・歩行を 入れる 座りっぱなしの条件を 変える

CCTで大事なのは、食事を「悪い/良い」に分類することではありません。

どの条件が重なったとき、次の眠気が強くなるかを見ることです。

一つ変えて、一周後まで見る。

それで十分です。

東洋医学では、食後の重だるさを「脾胃」の働きとしてまとめて見る

東洋医学では、食後の眠さ、身体の重さ、腹部膨満などを「脾胃」の働きが弱い状態としてまとめることがあります。

現代医学の血糖値や概日リズムと同じものではありません。

それでも、

量を多く食べた日だけ重い 脂っこい食事の後にだるい 食後に動きたくなくなる 便通も乱れている

といった食事後のまとまりを観察するという点は面白いです。

現代の睡眠科学は「昼食なしでも午後に眠くなる」ことを見せ、東洋医学は「食べた後に重くなるタイプ」を別のまとまりとして見ます。

どちらか一つで全員を説明しない方が、CCTには合っています。

「食後だから眠い」ではなく、「午後に何が重なったか」を見る

食後の眠気は実在します。

食事量が大きいと悪化する人もいます。

血糖の変動が関係する人もいるでしょう。

でも、午後の眠気には食事と独立した時間帯の谷もあります。

ここを知っているだけで、

「眠い=血糖が悪い」 「炭水化物を食べたから失敗した」

と一つの原因へ飛びつかずに済みます。

午後の眠気が強く、毎日の生活や運転に支障がある、十分寝ても耐えがたい眠気が続く、いびき・無呼吸を指摘される、あるいは糖尿病などの治療中で血糖変動が気になる場合は、自己流の食事調整だけで済ませず医療機関で相談してください。

Research Note

Research Note

Multiple sleep latency tests during the constant routine

1992 Mary A. Carskadon, William C. Dement
論文リンクを見る
研究種別
恒常条件下の睡眠傾向実験
どこの研究か
Brown University ほか / Sleep
どんな内容か
大きな食事の影響を抑えた恒常条件で、時刻による眠りやすさを2時間ごとに測定した
対象・条件
10〜12歳、16〜17歳、62〜74歳の計16人。小さな食事を毎時間摂取
主な結果
思春期以降の群で昼頃に睡眠傾向が高まる時刻効果がみられ、食事摂取だけでは説明できない午後の谷を支持した
限界
小規模で年齢構成が特殊。現代の一般成人の午後眠気の大きさを直接推定できない
Research Note

The post-lunch dip in performance

2005 Timothy H. Monk
論文リンクを見る
研究種別
レビュー
どこの研究か
University of Pittsburgh / Clinics in Sports Medicine
どんな内容か
午後のパフォーマンス低下と睡眠傾向の高まりを、概日リズムを含めて整理した
対象・条件
既存研究のレビュー
主な結果
post-lunch dipは昼食を食べていない場合や時刻を知らない条件でも起こりうる、生物学的な午後の谷として整理された
限界
レビューであり、個人の眠気原因を診断するものではない
Research Note

'Post-lunch' sleepiness during prolonged, monotonous driving - effects of meal size

2012 L. A. Reyner, S. J. Wells, V. Mortlock, J. A. Horne
論文リンクを見る
研究種別
二重盲検反復測定運転シミュレーター実験
どこの研究か
Loughborough University / Physiology & Behavior
どんな内容か
睡眠を5時間へ制限した後、軽い昼食と重い昼食を比較し、午後の単調運転中の眠気を測定した
対象・条件
若い男性12人。軽食305kcalと重食922kcal
主な結果
両条件で午後の眠気は時間とともに悪化し、重い昼食では後半に車線逸脱やEEG上の眠気がより強かった
限界
12人の睡眠制限条件で、日常の全員へ食事量効果を一般化できない
Research Note

Postprandial effects of breakfast glycaemic index on cognitive performance among young, healthy adults: A crossover clinical trial

2020 Natalia Sanchez-Aguadero ほか
論文リンクを見る
研究種別
クロスオーバー臨床試験
どこの研究か
Nutritional Neuroscience
どんな内容か
低GI・高GI・水のみの朝食条件を比較し、食後0・60・120分の認知課題を評価した
対象・条件
20〜40歳の健康な成人40人
主な結果
一部課題に差や傾向はあったが、全体として朝食GIの食後認知機能への影響は限定的だった
限界
食後の主観的眠気や個々の血糖スパイクを直接説明する試験ではない