PFCバランスの話になると、多くの人は脂質を減らすべきか、炭水化物をどこまで下げるべきかを考えます。けれど実際の食欲は、脂質と炭水化物の比率だけで動いているとは限りません。むしろ、たんぱく質の比率が少し下がるだけで、気づかないうちに全体量を多く食べてしまう可能性があります。
量は食べたはずなのに、どこか満ちきらない。食後しばらくすると、また何かをつまみたくなる。そういう日は、意志が弱いというより、食事の設計そのものが食欲を閉じにくくしているのかもしれません。
"Lowering the percent protein of the diet from 15% to 10% resulted in higher (+12±4.5%, p = 0.02) total energy intake."
(食事中のたんぱく質比率を15%から10%に下げると、総エネルギー摂取量はより高くなりました。〔12±4.5%増、p = 0.02〕)
Alison K. Gosby らの Testing Protein Leverage in Lean Humans: A Randomised Controlled Experimental Study(やせた成人でたんぱく質レバレッジ仮説を検証した無作為化比較実験)は、食事のたんぱく質比率を少し変えたとき、人の総摂取量がどう動くかを調べた研究です。ここで示されたのは、PFCバランスの「P」が少し薄まるだけで、人は脂質や炭水化物を余計に食べやすくなる可能性がある、という意外な結果でした。
この研究では、健康な成人を対象に、たんぱく質が10%、15%、25%になるように作られた食事をそれぞれ数日ずつ食べてもらい、自由摂取条件で総摂取エネルギーと食欲の変化を比較しています。
この研究が面白いのは、PFCバランスを「理想比率を意志で守れるか」という話ではなく、身体が何を優先して取りにいくかという視点へ変えてくれる点です。食べすぎは、たんぱく質が薄い食環境への生理的な反応かもしれません。
PFCバランスは脂質と糖質の綱引きだけではない
日常でPFCバランスというと、糖質を減らすか、脂質を減らすかという二択になりがちです。けれど、実際の食欲はもっと複雑です。菓子パン、麺と丼のセット、スナック菓子、甘い飲み物と軽食の組み合わせは、脂質と炭水化物が多く、たんぱく質は相対的に薄くなりやすいです。
こうした食事は、食べた直後には満足感があっても、あとから何かもう少し食べたくなることがあります。本人は量を食べたつもりでも、身体からすると必要なたんぱく質の割合がまだ足りていない可能性があります。
たんぱく質が薄いと脂質と炭水化物を余計に食べやすくなる
この研究の中心にあるのが、プロテイン・レバレッジ仮説です。人は脂質や炭水化物より、絶対量としてのたんぱく質を比較的強く確保しようとするため、食事中のたんぱく質比率が低いと、たんぱく質を満たすまで全体量を多く食べやすくなる、という考え方です。
実際にこの研究では、たんぱく質比率10%の食事で、15%食に比べて総摂取エネルギーが有意に増えました。しかも増えた分の多くは、たんぱく質そのものではなく、脂質と炭水化物由来のエネルギーでした。たんぱく質が少し下がるだけで、その不足を埋めようとして、結果的に脂質と炭水化物まで余計に取り込みやすくなる可能性があります。
高たんぱくにすれば何でも解決するわけではない
ここで大事なのは、高たんぱくなら無限によいという話ではないことです。この試験では、15%から25%へ増やしても、総摂取エネルギーは有意には下がりませんでした。つまり、「少し薄い」ときの影響は目立つ一方で、「多ければ多いほど食欲が下がる」と単純には言えません。
この視点はかなり重要です。必要なのは極端な高たんぱく食ではなく、少なくとも「薄すぎない」設計なのかもしれません。
食べすぎは意志より食事設計の問題として起きていることがある
食べすぎると、多くの人は自分の意思や我慢の弱さを責めます。けれど実際には、食事の設計そのものが、余計に食べやすい方向へ身体を動かしていることがあります。たんぱく質が薄い食事は、見た目には量があり、味の満足感もありますが、身体にとってはまだ終わっていない食事なのかもしれません。
この状態では、脳は「もう十分食べた」ではなく、「何かもう少し必要だ」と感じやすくなります。すると、間食、追加の一品、食後の甘い物のような形で、余計なエネルギーが入りやすくなります。しかも追加されるのは、たいてい手軽で食べやすい脂質や炭水化物です。
低たんぱくの食事は間食ループを呼びやすい
研究では、たんぱく質比率が低い条件で増えた摂取量の多くが、食事外でもつまみやすい食品から来ていました。これは日常感覚ともよく合います。主食中心の軽食、甘い物だけの補食、炭水化物と脂質に偏ったコンビニ食は、その場の満足感はあっても、あとからもう少し食べたい感じを呼びやすいです。
その結果、食事で終わらず、間食で埋める流れが生まれます。ここで起きているのは、単純な空腹ではありません。たんぱく質が薄いことで、食事が食欲の回路をしっかり閉じきれていない状態とも言えます。
東洋医学では量より満ち方の不足として捉えることがある
東洋医学では、食べた量があっても身体が十分に満ちないと、食後も落ち着かず、さらに求める状態が起こりうると考えることがあります。これは単に胃が空いているというより、取り入れたものが身体を養うかたちになっていない、という見方です。
とくに脾胃の働きが弱っていたり、食の内容が偏っていたりすると、量は入っていても充実感が弱く、また何かを求めやすい流れが生じるとされます。たんぱく質が薄い食事は、カロリーとしては入っていても、身体にとっての満ち方が弱い可能性があります。だから、あとから追加の食べ物や刺激を求めやすくなる、と読むこともできます。
現代栄養学で見えるプロテイン・レバレッジの話と、東洋医学でいう「食べても満ちない」感覚は、言葉は違っても、同じ体感の別表現としてつながって見えます。
PFCバランスの乱れは一食の問題ではなく一日の流れになりやすい
コアサイクルチューン(循環調律)では、生活の好循環を乱す要素を不協(ディゾナンス)、それを整える行動を解決(レゾリューション)として扱います。
この視点で見ると、PFCバランスの乱れは一食で終わりません。たんぱく質が薄い食事をとる、食欲が閉じきらない、間食や追加食が増える、総摂取量が増える、血糖や眠気の波も大きくなる、また手軽な高脂質・高炭水化物の食事を選びやすくなる。こうした流れで固定されやすくなります。
まずは一食ごとにPを薄くしすぎないことが大切である
解決(レゾリューション)は、極端な高たんぱく食へ振ることではありません。まずは、一食ごとにたんぱく質を薄くしすぎないことです。ごはんや麺だけで終わらせず、卵、魚、肉、豆製品、乳製品などを組み合わせて、PFCの「P」が食事の中で見える状態にする。それだけでも、食欲の閉じ方はかなり変わりやすくなります。
特に朝食や昼食でたんぱく質が薄いと、後半に食欲が荒れやすくなります。逆に、一食でたんぱく質源が入っていると、脂質と炭水化物を後から足したい感じが弱まりやすくなります。大事なのは、カロリー計算の正しさより、食欲が暴れにくい設計を作ることです。
食べすぎを減らす最初の一手はPを薄くしないことかもしれない
もちろん、この研究だけで万人に同じ最適PFC比率があるとは言えません。対象は健康なやせた成人で、日常生活そのままの自由食でもありません。また、15%から25%に増やしても総摂取量は有意に下がらなかったため、高たんぱくほどよいと単純化もできません。
それでも、PFCバランスの中で最初に崩れると食欲全体を乱しやすいのが「P」かもしれない、という視点はかなり重要です。食べすぎを減らす最初の一手は、脂質や炭水化物を敵視することではなく、たんぱく質が薄い食事を減らすことなのかもしれません。