海外旅行をしていないのに、食事の時間だけ大きくずれる日があります。

休日は朝食が昼。 夕食は23時。

翌日は仕事なので、また元の時間へ戻す。

こういう生活を見ると「食事で体内時計がずれる」と言いたくなります。

実際、人を研究施設へ入れ、すべての食事を5時間遅らせた実験があります。

結果はかなり面白いものでした。

血糖の概日リズムは約5.7時間遅れ、脂肪組織の時計遺伝子PER2も約1時間遅れました。

ところが、脳の主時計の代表的な出力であるメラトニンやコルチゾールのリズムは変わりませんでした。

つまり、「体内時計が丸ごと5時間ずれた」のではありません。

身体の中の時計同士が、違う反応をしたのです。

10人の男性が、食事だけ5時間後ろへずらした

2017年の研究では、健康な若い男性10人が13日間の実験室プロトコルへ参加しました。

最初は起床0.5時間後から5時間間隔で3食。

その後6日間、最初の食事を起床5.5時間後へ移し、3食すべてを5時間遅らせました。

睡眠・光など他の時刻手がかりはできるだけ保ちます。

そして食事スケジュールの後に37時間のconstant routineを行い、食事や睡眠の直接影響を減らして身体内部のリズムを測りました。

かなり手間のかかった実験です。

メラトニンとコルチゾールは動かず、血糖の波は5時間以上動いた

遅い食事へ変えても、

  • メラトニン
  • コルチゾール
  • 主観的な眠気
  • 主観的な空腹
  • 血中トリグリセリド

の概日リズムには明確な位相変化がありませんでした。

一方、血糖のリズムは5.69±1.29時間遅れました。

脂肪組織で測ったPER2遺伝子のリズムも0.97±0.29時間遅れています。

食事は、光のように主時計全体を強く動かすというより、代謝に関わる末梢時計へ別の時刻情報を与える可能性があります。

ここを知ると、「体内時計」という言葉を一個の時計のように使わなくて済みます。

ずれたからといって、翌朝のだるさまでこの実験で証明されたわけではない

元の記事では、遅い夕食から翌朝の重さ、集中低下までかなり直線的につないでいました。

しかし、この実験では主観的眠気の概日リズムは変わっていません。

睡眠パラメータにも、概日測定前の期間では明確な差がありませんでした。

だから、

遅い食事 → 末梢時計がずれる → 翌朝だるい

までをこの研究だけで証明したことにはできません。

むしろ面白いのは、本人が眠気の変化を感じなくても、代謝系の時刻は動いていたことです。

身体内部の同期は、自覚症状だけでは分からないことがあります。

毎日バラバラな食事時刻は、身体へ複数の時間帯を教えることになる

平日は7時、12時、19時。

休日は11時、16時、23時。

こうなると、光と睡眠はある時刻を示し、食事は別の時刻を示します。

研究はこの日常パターンを直接試したわけではありません。

でも、食事だけを5時間動かして末梢リズムが動いたなら、食事時刻も身体にとって無視できない時間情報だと考える根拠になります。

Dissonance Cycle 不協が作る悪循環
予定が遅くなる 食事時刻も数時間後ろ へずれる 翌朝は社会時刻へ 戻る 睡眠・光は早い時刻へ 戻される 食事だけ後半へ残 る 空腹や食事準備の時刻 が揃いにくい 食事時刻が日ごと に揺れる 複数の時刻手がかりが 揃いにくくなる 夕方に強く空腹に なる また夜へ摂取が集中し やすい

ここで不協(ディゾナンス)は「21時以降に食べたこと」ではありません。

睡眠・光・食事が毎日別々の方向へ動くことです。

完璧な早い夕食より、「振れ幅」を小さくする

全員が18時に夕食を食べる必要はありません。

夜勤や通勤がある人には不可能です。

食事時刻の研究を生活へ使うなら、まず見るのは絶対時刻より変動幅です。

普段20時なのに、週3回23時になる。 休日だけ朝食が4時間遅れる。

そういう大きな移動があるか。

Resolution Cycle 解決が作る好循環
一週間の食事時刻 を見る 最初と最後の食事が何 時間動くか把握する 大きいずれを一つ 減らす 夕食か休日の朝食など 触りやすい所を選ぶ 遅い日は軽くつな ぐ 一回の深夜食へ空腹を 集中させない 体調と食欲を見る 自分に意味のある安定 幅を探す 翌日を通常時刻へ 戻す ずれを何日も連続させ ない

これは「早く食べれば痩せる」という記事ではありません。

そのテーマは早い時間制限食の記事で扱っています。

こちらで見るのは、身体の時計同士へ違う時刻を教え続けないことです。

東洋医学なら、時計遺伝子ではなく「食べる時刻と脾胃の働き」を見る

東洋医学には現代の概日時計やPER2はありません。

一方、食事と休息の時刻を一定にし、脾胃へ規則的に仕事をさせるという養生の考え方があります。

遅い時間に重く食べると朝に食欲が出ない。 朝がずれるとまた夜へ食事が寄る。

こうした生活のまとまりを、消化機能のリズムとして見ます。

現代研究の末梢時計と同じだとは言えません。

でも、食べる内容だけでなく時刻も身体条件だと見る点は、別の体系からの補助線になります。

体内時計は一つではないから、食事だけを万能な時刻合わせにしない

この実験が教えてくれるのは、「食事で体内時計を完全にリセットできる」ことではありません。

むしろ逆です。

光に強く反応する時計。 食事へ反応する代謝リズム。

身体には複数の時間系があります。

だから、生活を戻したいときは、

起床時刻 朝の光 活動 食事

を一つのセットで見る。

食事だけ5時間ずらしても、主時計は同じ場所にいた。

このズレ自体が、時間栄養学の面白いところです。

Research Note

Research Note

Meal Timing Regulates the Human Circadian System

2017 Sophie M. T. Wehrens ほか
論文リンクを見る
研究種別
管理下の食事時刻介入実験
どこの研究か
University of Surrey / Current Biology
どんな内容か
3食を5時間遅らせ、主時計と末梢の概日リズムへ与える影響を測定した
対象・条件
健康な若い男性10人、13日間の実験室プロトコル
主な結果
遅い食事で血糖リズムが約5.69時間、脂肪組織PER2が約0.97時間遅れた。一方、メラトニン・コルチゾール・主観的眠気や空腹のリズムには明確な位相変化がなかった
限界
男性10人の短期管理実験で、日常の不規則な食事や翌朝のだるさを直接検証したものではない