ヨーグルトを毎日食べる。
納豆を食べる。
キムチを足す。
「腸活」と聞くと、こうした食品の菌が腸へ入り、善玉菌として住み着いてくれるようなイメージがあります。
でも、腸内細菌はそこまで単純ではありません。
発酵食品に含まれる微生物が、そのまま長期定着するとは限らない。食品ごとに菌も違うし、加熱されているものもあります。
それでも、発酵食品を増やした食生活そのものが腸内細菌叢と免疫指標を動かした人での研究があります。
2021年、Stanfordの研究チームが健康な成人を対象に17週間の食事介入を行いました。
発酵食品を増やす群と、食物繊維を増やす群を比べた研究です。
18人ずつの介入で、発酵食品群では微生物の多様性が徐々に増えた
研究では36人が解析され、18人ずつ2群に分かれました。
一方は発酵食品を増やす食事。
ヨーグルト、ケフィア、発酵カッテージチーズ、キムチ、発酵野菜、コンブチャなどを、数週間かけて増やします。
もう一方は、豆類、種子、全粒穀物、野菜、果物などから食物繊維を増やしました。
発酵食品群では、介入が進むにつれて腸内細菌叢の多様性が増えました。
さらに複数の炎症関連タンパク質や免疫細胞の活性化指標が低下しています。
一方、高食物繊維群では、腸内細菌が持つ糖質分解酵素の能力は増えましたが、研究期間中に微生物の多様性そのものは増えませんでした。
どちらかが「勝った」という話ではありません。
同じ腸活でも、食物繊維と発酵食品では違う場所が動いたのが面白いところです。
「発酵食品の菌が住み着いたから」と決めると、研究より先へ行ってしまう
ここで注意したいのは、発酵食品群で多様性が増えた理由です。
食品に入っていた菌がそのまま腸へ定着して、多様性を増やした――と考えたくなります。
でも研究では、腸で増えた新しい菌の多くを、実際に食べた発酵食品の菌だけでは説明できませんでした。
発酵食品が腸内環境を変え、もともと低い割合でいた菌が増えた可能性もある。
食品中の代謝産物が影響した可能性もある。
複数の経路が考えられます。
つまり、
発酵食品 → 有用菌が腸に住み着く → 腸が整う
という一方向の広告的な説明より、ずっと複雑です。
その複雑さを残した方が、逆に日常では使いやすくなります。
特定の菌を当てにするのではなく、食生活という環境を変える発想になるからです。
量より「少しずつ種類が増える」方が生活へ落とし込みやすい
研究では、発酵食品の摂取量を徐々に増やしました。
だからといって、今日から大量のキムチやヨーグルトを食べる必要はありません。
急に増やせば、腹部膨満、ガス、塩分、糖分など別の問題も出ます。
日常では、
朝にヨーグルト 昼に味噌汁 夜に納豆 別の日は少量のキムチ
のように、もともとの食事へ少量ずつ入れる方が続けやすい。
発酵食品を「薬のように一品摂る」より、食事の選択肢を増やす部品として扱えます。
腸活は、一つの食品へ期待しすぎるほど続きにくくなる
「腸にいいものを始めよう」と思う。
高いサプリを買う。 特定のヨーグルトを毎日食べる。 数日で何も感じない。 やめる。
この流れはよくあります。
腸内細菌叢は一食で全面改装されるものではありません。
しかも、自分が欲しい結果が「便通」なのか、「腹部膨満」なのか、「炎症マーカー」なのかでも話が違います。
この場合、不協(ディゾナンス)は「発酵食品を食べていないこと」ではありません。
一品で一気に整えようとするため、食生活の環境が変わらないことです。
まずは「一品追加して、腹の反応を見る」くらいでいい
発酵食品を生活へ入れるなら、最初から健康効果を採点しない方がいい。
一週間、今までより一品増やしてみる。
便通。 張り。 食後の重さ。 食べやすさ。
そこだけ見ます。
発酵食品を増やしてお腹が張るなら、無理に続ける必要はありません。
塩分制限が必要な人なら、漬物や味噌の量には別の配慮が必要です。
「腸にいい」というラベルより、自分の身体でどう収まるかを優先します。
東洋医学の「脾胃」は、菌ではなく食後のまとまりを見る
東洋医学では、腸内細菌という概念はありません。
食事を受け取り、身体を支えるものへ変える働きを「脾胃」という機能概念で見ます。
食後に重い。 腹が張る。 便が安定しない。 食欲が乱れる。
こうしたものを、菌の種類ではなく食べた後のまとまりとして観察します。
現代のマイクロバイオーム研究とはまったく別の理論です。
ただ、発酵食品研究を生活へ持ち帰るときには、この視点が意外と役に立ちます。
「どの菌が増えたか」は家庭では測れない。
でも、「これを食べた週は腹が軽いか」「張りが増えたか」は見られる。
研究の細かいメカニズムを、自分で観察できる体感へ戻す補助線になります。
発酵食品の面白さは、「善玉菌を入れる」より食事の環境を変えること
この研究から、「発酵食品を食べれば炎症が治る」とは言えません。
健康な成人36人という小規模な研究です。
しかも食事全体を17週間管理した介入です。
それでも、食べ物を変えたら、腸内細菌叢と免疫指標が一緒に動いた。
これは十分面白い。
腸活をサプリの一発勝負ではなく、
何を日常的に食べるか どれくらい種類があるか 自分の腹がどう反応するか
という長い流れで見るきっかけになります。